税理士塩見健二著
運転資金なのに、なぜ資金使途違反になるのか
コロナウイルスの蔓延に伴い政府系金融機関や各都道府県の信用保証協会よりコロナ関連融資や保証が発売されました。
資金使途は、金融機関の融資にとって重要な意味をもちます。
その融資された資金は、設備につかわれるのか、納税につかわれるのか、売掛金見合いで会社に滞留する、といった感じです。
設備資金の場合は、設備に使われなかったら一目瞭然で資金使途違反になることは、よく知られています。
設備資金の使い方の証明で、領収書やその融資をした金融機関で設備代金を支払います。
ですが、設備資金と違って運転資金での資金使途違反はあまり知られていないです。
運転資金の融資であっても資金使途違反は成立します。
諸経費の支払いという資金使途での運転資金は、その法人での諸経費の支払いに融資が使われないとダメです。
コロナ融資についての資金使途は、赤字補填や補助金の入金があるまでのつなぎ資金という意味です。
ですので、法人にコロナ融資が実行されてから、直ぐに社長に貸付をしたりしていると資金使途違反になります。
金融機関が資金使途違反と判定する基準
金融機関は、赤字補填等の資金使途で融資実行されたコロナ融資が、何か月目に他の用途(社長貸付等)に利用されたかを調査します。
月2,000万円の固定費の会社が、1億円のコロナ融資をうけた場合は、理屈上ですと5ヵ月(=1億円÷2,000万円)で融資が諸経費の支払いに利用されたことになります。
ですので、融資実行から5ヵ月先に資金使途以外に使われ方をされても資金使途違反で追及されることは少ないと考えられます。
資金使途違反かどうかを判断するときに、金融機関から求められる書類
必要書類は、下記の書類になります。
推移損益計算書、推移貸借対照表、貸付金の元帳、顛末書等です。
推移損益計算書
推移損益計算書では、赤字補填で使われているかをチェックします。
コロナ融資の資金使途は、赤字補填と補助金の入金があるまでのつなぎ資金というものです。
推移貸借対照表
推移貸借対照表では、手元資金の月ごとの推移をチェックします。
手元資金が融資実行後に減少して入ればOKです。
貸付金の元帳
貸付金の元帳は、いつにいくらを会社から現金が抜けたかをチェックします。
顛末書
顛末書は、ことの経緯、金融機関の支援方針、今後の経営方針を書いていきます。
資金使途違反が発覚したときの金融機関の対応
一般的なケース
基本的には、資金使途違反が金融機関に知れ渡ったら融資の一括弁済ないしは、保証謝絶ということになります。
コロナ融資の特徴は、赤字補填や補助金の入金があるまでのつなぎ融資という点にもあります。
融資された金が赤字の補填として使われたのかという点もチェック項目となります。
金融機関から出入り禁止になったときのキーワード
多額の社長貸付等の資金使途違反が発覚したときは、金融機関より融資の繰上弁済を求められることがあります。
とくにサブ以下の融資残高で、かつ、プロパー融資の場合はとりあえず完済して欲しいと言われる可能性が大いにあります。
一旦、完済したあとに、再度融資を申し込みをするときに、「当分の間、時間をあける必要がある」と言われたら出入り禁止と思ってもらって差し支えないです。
社長貸付の消し方
金融機関には、社長貸付金の返済プランと説明することに限ります。
社長貸付金の帳簿からの消し方は、3つあります。
役員報酬の増額
オーソドックスに役員報酬を増額して、その手残りで会社に返済します。
自己株式の取得
社長が持つ会社の株式を会社に譲渡することで役員貸付金を消すことができます。
ただし、この場合は、みなし配当課税が問題となります。
社長の配当所得課税
みなし配当は、社長の所得税の計算において総合課税され多額の納税負担が生じる可能性があります。
法人の源泉所得課税
みなし配当が生じたときは、法人にみなし配当に係る源泉所得税の納税義務があります。
生命保険金を活用する方法
一度に役員貸付金を消そうとするときは、社長個人が、生命保険契約を担保(質権設定)し、リース会社から社長が融資をうける手法があります。
この手法は、一昔は流行りましたが現時点ですとリース会社が融資してくれる先が少ないです。
特に実態債務超過の会社だと難易度が高いです。
社長貸付の税務調査
貸付として処理
社長貸付は、法人が社長個人にお金を貸し付けたことになっています。
ですので、認定利息を計算する必要があります。
この認定利息の計算は、その法人の平均利率等で計算するようです。
役員賞与認定
役員賞与になるのか、役員貸付になるのか、の判断基準は返済可能性です。
役員が明らかに資力がない場合ですと役員賞与として認定される場合があります。
このようなときに、税理士が役員賞与でないと反論できるか、反論しないか、で腕の差がでてきます。
社長貸付のデメリット
本当は会社の経費なのに税理士が勝手に社長貸付と処理することはよくあります。
この社長貸付のデメリットは、下記のとおりです。
①上記で説明した認定利息
②金融機関からは、融資が法人を利用した迂回融資とみられるため印象が悪い
社長が死亡した場合の役員貸付の取り扱い
社長が死亡した場合は、役員貸付が社長の個人債務となります。
ですので、社長の相続人が社長の残した資産等で弁済する必要があります。
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