税理士塩見健二著
運転資金とは
銀行融資は、大別すると運転資金と設備資金に分類できます。
運転資金(英語:working capital)は、設備資金以外の資金です。
設備資金は、店舗設備、車両、不動産、会社(M&Aによる取得)等を取得する資金です。
決算書の表示は、有形固定資産、無形固定資産、投資その他にカウントされるものです。
運転資金の細目は、諸経費の支払資金、納税資金、賞与資金、採用教育資金、季節資金、商品仕入資金、経常運転資金、増加運転資金、赤字補填資金になります。
融資は、資金使途が重要になりますので何の資金なのかを明確にするのがポイントです。
諸経費の支払資金
何の支払いにあてたのか明確にする必要のない運転資金融資です。
ただ、一部の金融機関のプロパー融資や信用保証協会付き融資ですと融資を実行した資金を人件費や経費の支払いに利用し
たことを証することを融資条件を付される場合があります。
証明方法は、融資した金融機関の口座から支払いをすることで足ります。
毎年、数十件も出店するような会社は、設備資金で融資していると資料のやり取りが面倒なので年次資金で何億円と融資する場合もあります。
納税資金
納税資金は、法人税の中間および本税の支払い資金です。
通常は、6ヵ月の約定弁済付資金です。
融資に必要な書類は、納付書です。
金融機関との初回取引は資金使途が明確であり、かつ短期間で完済する資金がいいです。
ですので、初回取引に納税資金を利用するのに適しています。
一部の金融機関では、6ヵ月でなく12ヵ月の融資だったこともあります。
消費税の中間および本税の支払いには利用できないです。
一部の金融機関では、諸経費の支払いという異なる資金使途で融資することもあります。
納税資金の目的は、資金繰りの安定化です。
賞与資金
賞与資金は、従業員の賞与支給に充てる資金です。
納税資金と同様で6ヵ月の約定弁済付資金です。
注意しないといけないのは、一部の人に対して支払う賞与だと融資審査に通らない可能性があります。
融資に必要な書類は、給与台帳が必要になります。
採用教育資金
採用教育資金は、従業員募集のため採用費や新人教育に充てるための資金です。
新人教育期間は、おおむね3ヵ月とみます。
ですので、採用費+人件費の3ヵ月分が融資量となります。
返済期間は6ヵ月から12ヵ月となります。
季節資金
季節資金は、月商が季節によって増減する産業に適用されます。
月商が少ない季節につなぎ資金として3ヵ月位の短期間の融資になります。
特段、売上が減少することを証する資料は必要ないです。
事業概況書に月毎の売上高の推移が記載されていますので、それで十分です。
商品仕入資金
商品を仕入れるためのつなぎ資金です。
返済原資は、売上代金となります。
そのため返済方法は、期限一括弁済となります。
建築業者の材料仕入、不動産業者の商品不動産仕入、輸入業者の商品仕入等になります。
必要な資料は、何にいくら必要かというような資料が必要になります。
経常運転資金
経常運転資金は、常に在庫、仕掛品、売掛金があるようなメーカー等への資金です。
恒常的に融資が必要な産業への融資のため、何にいくら、使ったかというような資料を求められることはないです。
返済期間は、納税資金、賞与資金等と異なり保全状況や取引回数によってかわってきます。
増加運転資金
売上高の増加に伴い固定費等の経費も増加します。
この増加した経費の資金調達方法は、企業財務を考えると自己資金(増資)がベストですがそんなにお金を持っている代表
者がいないです。
そこで金融機関は、自己資金の代わりに融資で手許資金を増加してくれます。
こちらの資金も明確な支払いトレースを必要としないです。
そのため返済期間は、保全状況、財務内容に応じて変化します。
赤字補填資金
赤字補填資金は、最近ですとコロナウイルス蔓延に伴う売上減少による赤字対策です。
通常の赤字補填資金は、リストラ資金、事業撤退資金になります。
金融機関からの融資を受ける際の審査に必要な書類には、借入残高一覧表があります。
実態は、赤字補填資金だとしても「赤字補填」と書かないで欲しいと金融機関の担当者から指摘されます。
運転資金の計算期間
運転資金の計算期間は業種によって異なってきます。
オーソドックスな計算方法は、下記のとおりです。
月商が毎月安定している会社では、月商2ヵ月分
月商が安定せずに固定費が安定している会社では、固定費3ヵ月分
ですが、低金利の時代で金利負担が気にならない会社は、早め、多めに借りておくのが運転資金融資の基本です。
ですので、上記の目安以上に借りておいても問題ないです。
創業融資の運転資金
創業融資は、決算書も何もできていない状況です。
ですので、社長の人柄や過去の実績だけが審査対象になります。
オーソドックスな創業融資の融資量は、自己資金の3倍になります。
自己資金を300万円持っている人は、900万円が上限ということです。
この900万円は、設備資金と運転資金の合算額となります。
自己資金を300万円は持っていないと開業早々に債務超過に陥ったり、融資0円回答も十分にありえます。
運転資金融資が伸びずらい会社と対策
グループ会社が多い
グル―プ会社が多くなる理由は、さまざまです。
相続時に子供一人ずつに会社を与えた、業法上の関係で会社を分けないといけない、優秀な人員のためのポスト等です。
グループ会社が多い会社は、会社の実態をつかみづらいため資金使途がぼやける運転資金の融資を金融機関は嫌がります。
資金使途がぼやける融資とは、諸経費の支払い、経常運転資金、増加運転資金といった資金トレースを追わない資金です。
資金トレースをおわないと関係会社間でお金の貸し借りに発展します。
代表者が資産家
会社自体は目一杯お金を借りて事業をしているため借金まみれですが、代表者が個人で現金、有価証券、不動産を持ってい
る場合があります。
この場合は、代表者の資産状況を把握する必要があり法人の純資産額に加算します。
ただ、金融機関は、会社に対して融資するため融資審査がやりづらいといったことがおこります。
オススメは、代表者個人がもっている現金で当面つかわないものを会社の通帳にいれておいてもいいとおもいます。
株主構成がぐちゃぐちゃ
相続対策をきちんとしていない会社は、先代が遺した複数の会社を複数の相続人でバラバラに相続しています。
こうなりますと誰が、どの会社を支配しているのかみえづらくなります。
そうなりますと、本来よりも厳しい融資審査になってしまいがちです。
オススメは、きちんと相続対策をすることです。
相続対策が出来ていない状態でも資本関係を綺麗に直していくことが重要になってきます。
決算書の表示の仕方
決算書で銀行がみる項目は、売上高です。
決算書に売上高と書いてあるだけだと何の会社なのかわからないです。
ですので、売上の内容を示す勘定を利用した方がいいです。
例えば、直営の飲食店とフランチャイズの飲食店をしている会社ですと直営売上高とFC売上高みたいにわけていきます。
金融機関は、毎月安定的な売上高が計上される事業に融資をしたいものです。
運転資金の二重金融
金融機関は業績のいい会社ですと他の金融機関と同じ資金使途で融資をする場合があります。
同じ資金使途ですので二重金融ということになります。
よくあるのが諸経費の支払といった資金トレースが追えない資金使途での運転資金です。
このように二重金融がなされている会社の特徴としては、事業規模と比べて異常に手許資金量です。
銀行が運転資金を貸したくなる会社の特徴
銀行が運転資金を融資したくなる会社の特徴は下記のとおりです。
手許資金が潤沢であること
財務内容がいいこと
手許資金が多いと、銀行としてはいつでも回収できますし、手許資金がある限りすぐに資金ショートしないです。
財務内容がいいと、審査も通しやすくなります。
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