税理士塩見健二著
この記事は、3,894文字です。
バックファイナンスとは
バックファイナンスとは、下記のような金融手法です。
一旦、商材や設備の仕入れ資金を自己資金で決済します。
その後に金融機関からの融資で減少した自己資金を回復させます。
バックファイナンスの申込みから着金までの期間は下記の通りです。
金融機関の支店決済で済む融資量だと4週間ほど、本部決済になると5週間が目安です。
バックファイナンスは、本来の金融手法でないです。
初回取引からバックファイナンスを拒む金融機関も存在します。
金融機関の融資の世界は、支店長次第で大きく融資スタンスが変わります。
ですので、数あたっていい支店を見つけるのが常套手段です。
銀行のバックファイナンス
不動産業者向けのバックファイナンスは、ほとんどメガバンク、地方銀行で対応してくれないです。
「ほとんど」、であり「全て」でないです。
よほど財務内容がいい事業者や取引実績の長い事業者にはバックファイナンスも対応してくれるということになります。
銀行が財務内容の判断に使う資料は、下記のとおりです。
銀行以外の信用金庫、信用組合、ノンバンク、クラウドファンディングでも同じ資料を利用します。
①直近の試算表
②不動産の在庫一覧表※各プロジェクトの住所、簿価、ひも付き金融機関、進捗が記載されいること
③借入残高表
④販売実績一覧表
多くの不動産業者は、試算表と不動産在庫一覧表および借入残高表の数字が合致していないです。
銀行としては、数字が合致していない資料を提出されても困るものです。
各資料の数字が合致していない原因は、簡単です。
試算表は税理士が作成する、在庫一覧表や借入残高表は不動産業者が作成するからです。
解決策は、試算表以外の資料も税理士が作成したらいいだけの話です。
一部の外資系銀行は、不動産の担保力があり、事業者の財務内容がよければバックファイナンスでも融資をします。
信用金庫や信用組合のバックファイナンス
信用金庫、信用組合ですと、バックファイナンスも融資審査の土台にのってきます。
特段、銀行のようにバックファイナンスは資金使途が明確でないという理由で融資審査を蹴ったりしないです。
一部の信用金庫は、初回からバックファイナンスだとハードルが高いため融資審査をしてくれない先もあります。
日本政策金融公庫(国民生活)のバックファイナンス
日本政策金融公庫は、不動産の仕入れ資金であってもバックファイナンスが可能です。
注意点は、不動産の仕入決済前に日本政策金融公庫にバックファイナンスをお願いしたい旨を伝える必要があります。
日本政策金融公庫によるバックファイナンスは、自己資金で仕入れ決済後に、抵当不動産に抵当権設定登記をします。
その抵当権設定が完了した後に、融資実行となります。
日本政策金融公庫は、日本全国の不動産を担保としてみます。
不動産の決済は、日本政策金融公庫の支店にて行う必要があります。
ですので、不動産仲介業者のオフィスなどで決済できないです。
地方の不動産の仕入れるときは、買主、売主双方が日本政策金融公庫まで足を運ば必要があります。
あと、融資条件が一般貸付だと不動産の仕入れ資金であっても、原則10年と短期間です。
ただし、売主が高齢で不動産賃貸業を引退するなどの事情があれば事業承継資金の利用(返済期間15年、20年)がありえます。
ノンバンクのバックファイナンスの融資スタンス
ノンバンクは、自社の貸金債権の保全が図れているならばバックファイナンスでも融資を検討します。
ただし、注意しないといけないのはノンバンクは、金融機関と異なりコーポレートの評価をしないです。
ですので、不動産の仕入価額と融資額が大幅に乖離する可能性も大いにあります。
特に区分マンションは土地評価が全く伸びないです。
そのため自己資金の負担が銀行よりも重くなる傾向にあります。
ただ、あまりにも財務内容がいい企業は、金融機関よりも融資量が伸びる傾向にあります。
財務内容がいい基準は経常的に税前利益1億円オーバーが目線になります。
融資条件は、銀行、信用金庫、信用組合より悪いです。
ノンバンクの融資条件の目線は下記のとおりです。
融資事務手数料:1.5%前後
金利:3.5%~15%
繰上弁済事務手数料:1.5%前後
クラウドファンディンによるバックファイナンス
クラウドファンディングはバックファイナンスが対応可能です。
クラウドファンディングは、ファンド組成業者が投資家に資金使途を説明する必要があります。
その資金使途を明確にできるようにしていくことが大切になります。
融資条件のイメージは、下記のとおりです。
資金使途:不動産の取得、諸経費の支払い※ファンド業者ごとに何処までの資金使途でファンドを組成するか異なります。
融資事務手数料:2%前後
金利:5%~
ロット:3,000万円~
着金までの期間:2ヵ月
融資期間:6ヵ月~12ヵ月※融資期間が長いと投資家から資金が集まりずらいです。
LTV:ほとんどのファンド業者は、不動産担保ローンになります。担保評価以上の融資はしないです。
バックファイナンスの範囲
バックファイナンスは資金使途で考えると運転資金です。
どの支出までカバーされるかは、担保物の評価にもよります。
担保物の評価が伸びればのびるほどカバーされる支出はのびていきます。
比較的に担保評価が伸びやすい不動産は、土地の広い不動産になります。
逆に不動産の担保評価が伸びない代表例は、下記のとおりです
・区分マンション
・土地の狭いビル
・エレベーターのない5階建ての建物
バックファイナンスと期間
バックファイナンスは、自己資金を支払ってから2ヵ月までが範囲とする金融機関、ノンバンクが多いです。
バックファイナンスをする旨をあらかじめ金融機関、ノンバンクに伝えておくことが大切です。
不動産の仕入れ時の会計、税務処理
不動産の仕入れの会計処理は、不動産を在庫で保有するのか、長期保有し家賃収益を得るのかでかわってきます。
まずは、不動産を在庫として保有する場合を説明します。
在庫として保有する場合は、基本的に売上が計上されるまで仕入れ代金、諸経費、金利、融資事務手数料、租税公課を在庫に計上します。
この処理をしないと下記の不利益をこうむります。
財務上の不利益は、費用が先行してしまうため決算書の数字が悪化します。
下記に銀行の決算評価が高くなるような会計処理の仕方を添付します。
次は、収益不動産として不動産を保有する場合の会計処理を説明します。
不動産の仕入れまでにかかった支払いは原則として、固定資産の勘定である土地と建物に按分して資産計上します。
ただし、登録免許税は支払い時に費用処理が認められています。
ですので、不動産の取得に要した、仲介手数料、司法書士報酬、融資事務手数料が固定資産として処理されます。
不動産の仕入れ時の税務調査ポイント
はじめに在庫であっても収益であっても税務調査で指摘される事項を説明します。
土地と建物の按分方法
土地と建物の按分方法は、原則として、固定資産評価額に基づいて按分します。
土地と建物の按分に関する裁判例(大阪地裁、令和2年3月12日判決等)があります。
税務署および裁判所も原則として固定資産評価額に基づく按分を支持しています。
その他の方法は、不動産鑑定士による鑑定士評価、路線価と建物再調達原価に基づく按分があります。
税務署との無用なトラブルを避けるためには、売主および買主で価格形成のプロセスを明確にしておくことが重要だと思われます。
売主および買主の発言内容の議事録、メモ、不動産鑑定士による鑑定評価証、何パターンかの按分価額のシミュレーションになります。
古家付きの土地の按分方法
上記においては、固定資産評価額に基づいて按分することで税務署とのトラブルが避けられることを説明しました。
耐用年数越えの建物の固定資産評価額は、新築評価額の5%とされています。
ですが、耐用年数を超えた建物を古家付きの場合は、建物0円評価で土地のみの対価とする売買契約もあります。
古家付き土地の裁決事例(平成20年5月8日、裁決事例集No75、711頁)は下記のとおりです。
事件の概要
①売買契約書には、建物価額0円、土地のみと記載。
②納税者が、契約書通りに会計処理せず、建物と土地を固定資産評価額で按分した。
建物簿価に基づいて減価償却した。
③税務署は、売買契約書通りに会計処理すべきであり、減価償却すべきでない。
④国税不服審判所は、税務署の主張を支持する。
在庫として保有する場合の注意点と解決策
税務調査時に、特に注意しないといけないのは、融資事務手数料です。
融資事務手数料は、銀行などに融資実行時や融資枠を設定したときに融資金額の数%を手数料として支払います。
商品不動産に関する税務署の基本的な考え方は、仕入れた不動産に係る費用は、売上が計上するまで費用してはいけないです。
融資事務手数料は、融資実行時等に支払うため売上に先行してお金を支出してしまいます。
安全策としては、不動産をプロジェクト毎に管理し適正な原価計算ができている体制にしておけば無用な税務リスクを負わないです。
収益目的で保有する場合の注意点と解決策
こちらも基本的に不動産を在庫としてもつ場合と同じ点が税務調査でみられていきます。
あとは、収益不動産の特有な論点として不動産の耐用年数がチェックされます。
この耐用年数が早く償却されているように会計処理されていないかがみられます。
資金繰り等の財務、税務、会計業務をオールインワンで受注!